スペクトラムに量子的

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臨床心理学について書くブログ

「不正受給許さない」ジャンパーについての見立て

こんにちは。

今回は、小田原市職員が「生活保護の不正受給を許さない」という趣旨のメッセージが書かれたジャンパーを着て、仕事にあたっていたというニュースについて書きたいと思います。

www3.nhk.or.jp

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まず始めに言っておくと、このジャンパーを着用しつつ生活保護者の支援業務を行うのは、許されないことだと思います。

受給者側からすると、目立つ格好で訪問されたりすれば、生活保護世帯であることが分かってしまうし、本来受給資格があっても申請そのものを控えてしまうという負の効果もあるでしょうから。

つまり受給者サイドからすればとても迷惑なものでしかないわけです。
人権的に社会的に問題ありと言わざるを得ません。それははっきりとしていると思うので、ここではそれ以上触れないでおきます。

 

ジャンパーを作成した動機の見立て

むしろ注目したいのは、現場の職員がなぜにこういう行動を起こすに至ったかという動機の方です。まずは、記事でその経緯を確認してみましょう。
そのうえで以下に動機の見立てを。

 

このジャンパーは10年前の平成19年に生活保護の受給をめぐって職員が男から切りつけられた事件をきっかけに有志の職員によって作られ、職場で着用されていましたが、その後、一部の職員が受給者の家庭を回って支援に関する相談に応じる際などにも着ていたということです。

ジャンパーは業者に製作を依頼してまとめて購入したあと1着4400円で希望する職員に販売され、これまでに64人が購入したということです。

引用元http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170117/k10010842921000.html

 

 

10年前の切りつけ事件は、相当に当時の職員のストレスになったと思われます。一部の方にはトラウマが残ったかもしれません。

本来であれば緊急的に生じた事件から受けるストレスを回復するための猶予が必要になるのでしょうが、役所の人事はなかなか頑固で柔軟性を欠くところがありますから、現場の職員は引き続き、これまで通り対人業務にあたったと推測できます。

さらに言えば、現場の上に立つ幹部職員は部下に対し相応の配慮が求められたでしょうが、おそらく適切な対応はとられなかったでしょう。

なぜならば、「有志の職員が自費でジャンパーを作成する」という行動は、仲間意識を強固にして事にあたるという意思表示であり、何もしてくれない上層部に対する抵抗だと考えられるからです。

僕はそこに「大変な仕事なのに評価されない」とか「しんどさを認めて欲しい」という思いを読み込みます。

認められていない、誰も助けてくれないという状況への抵抗と考えれば、ジャンパーのメッセージに問題はあるにせよ、みんなで肩を寄せ合って頑張ろうと、鼓舞すること自体には共感できるのです。

 

だからこそ、このニュースを知った時にまず「寂しさ」を感じました。

 

 

 組織が認めるべきこと

それにしても、こうした行動の背後にあるものは一体なんなのでしょうか。
制度があれば悪用する人が現れるのは世の常なのですから、不正受給者をゼロにするのは無理があるでしょう。

残念ながら、行政がルール通りに運営されなかったり、不心得者がまかり通るのがこの世です。それはもはや個人が対処できる領域を超えています。

理想的ではない状況は現実世界に必ずあるわけですから、それを勘定に入れるのは当然だと思うのですが、「不正受給者がいるということ」があたかも「担当者個人のミス」という風に捉えられてしまう、その認知の仕方こそが縁起になってしまっているように見受けられます。

機械には初期不良があり、ルールには抜け穴があり、世間にはフリーライダーがいます。それらは必ず在るもので、決して無くしてしまうことはできないということを前提にする。

それを組織が認めてあげれば、個人あるいはチームは随分と救われるし、困難な問題にも前向きに取り組めると思うのですが。

 

今回はここまでに。