スペクトラムに量子的

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臨床心理学について書くブログ

シンタグマティックとパラディグマティック

こんにちは。

今回は投影法・芸術療法は人にどう作用するのかについて。

中井久夫著作集第1巻を読んでヒントを得ました。というか中井先生の考え方を私的にまとめると以下のようなるのではという覚え書きです。

 

 

言語学的概念を使った補助線

はじめに、補助線をまずひとつ引いてみたいと思います。言語学で扱われる概念にsyntagmaticとparadigmaticというものがあり、これは対になっています。以下に簡単な説明を。

syntagmatic(シンタグマティック)

シンタグマティックとは統語的関係のことをいいます。というと統語的ってなに?という話になりますよね。そこで統語的を視覚的に表現すれば「横の関係」ということになります。さらに、え、「横の関係」ってなに?という話になると思うので、横書きの文章を横の関係の現象として考えてみてください。

たとえば次の文について。

「私、は、朝、起きて、から、ご飯、を、食べる、前に、歯、を、磨く」

文章は言葉が連続的に連なっていきますが、その場合の、並んだ言葉の関係のことをシンタグマティックといいます。言葉はお互いに関係を持ち、全体として意味を構成します。

paradigmatic(パラディグマティック)

パラディグマティックとは範列関係のことをいいます。そしてシンタグマティックとは対概念になりますから、「縦の関係」と言い表すこともできます。

例として次の文を。

「私はランチに( )を食べたい。」

文として( )の中には基本的に食べ物であれば何を入れてもよいわけです。それをもう少し記号的に表現すると以下のようになりますね。

「私はランチに(A)を食べたい。」
「私はランチに(B)を食べたい。」
「私はランチに(C)を食べたい。」
「私はランチに(以下続く)を食べたい。」

つまり選択肢を縦に並べた形になっていて、これを「縦の関係」と呼んでいます。

 

シンタグマティックな選択とパラディグマティックな選択

シンタグマティックとパラディグマティックは関係性を意味しますが、文を作る際の言葉の選択の形式に注目したものでもあります。つまりシンタグマティックな選択とパラディグマティックな選択があるというわけです。

シンタグマティックな選択

これは相補的なものの中から各々の相互関係を考慮しつつ、一つの全体を構成するように行う選択のことをいいます。主語、述語、補語などを集めて文をつくる際の選択と同じです。

パラディグマティックな選択

相似なものの中から相互排除的に一つを選ぶ過程は、いくつかの同義語の中から一つを選ぶ過程と同じです。

 

投影法・芸術療法の特徴

ここまでは、人が文を作る際の選択の形式に注目してきました。次に、投影法・芸術療法の特徴をみていきましょう。

箱庭療法風景構成法

芸術療法の例として《箱庭療法》と《風景構成法》をあげておきます。箱庭療法はフィギュアを砂箱の上に配置していき、風景構成法は指示された事物を画用紙に書き入れていきます。本人によって何をどこに置(描)くのかが決定され、部分はそれぞれに関係(距離)を持ち、全体を構成します。また、何かを一つ追加すれば全体は必ず変化します。

ここで行われる選択は、主語、述語、補語などを集めて文をつくる際のシンタグマティックな選択といってよいでしょう。さらにいえば、構成は未来を指示しやすいとされています。

ロールシャッハ・テスト

ロールシャッハ・テストはインクのしみが何に見えるかを問うものですが、ある反応とまた別の反応には関係性がなく独立していて、一つの全体を目指すものではない、という特徴があります。

また、何に見えるかという問いは、複数の選択肢の中から相互排除的に一つを選ぶという過程を要請しますから、必然的にパラディグマティックな選択を行うことになります。そして、投影はすぐれて過去を指向するといわれています。

 

まとめ

シンタグマティックな選択とパラディグマティックな選択という選択形式の違いを補助線に、投影法と絵画療法を比較して眺めてみると、それらが何を要請し何を指向しているのかが見えてきます。これは大きな収穫でした。

これは余談ですが、精神病圏の人に投影法を用いる場合はかなりの慎重さが要求されます。というのも投影法はかなり侵襲的に作用することがあるといわれているからですが、それは、複数の選択肢の中から相互排除的に一つを選ぶというパラディグマティックな選択過程が強く影響するからかもしれません。

 

今回はここまでに。